01会社の年収は、1円単位で公開されている
上場企業は毎年、有価証券報告書という書類を出します。
そこには社員の数、平均年齢、そして平均年収が1円単位で載ります。推計でも調査でもありません。会社が法律にもとづいて出した数字です。
2025年3月期の分を開くと、こうなっています。
| 会社(提出会社単体) | 従業員数 | 平均年齢 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 鹿島建設 | 8,854人 | 41.9歳 | 11,847,369円 |
| 大林組 | 9,386人 | 42.4歳 | 11,404,238円 |
どちらも2025年3月31日の時点です。この金額には賞与も入っています。
ただし対象は本体の社員だけです。グループ会社の社員も、下請の職人も、この数字には入っていません。
02「建設業は給料が安い」は、平均では当たらない
ここで業界全体を見ます。
国税庁の調査で業種ごとの平均年収を見ると、建設業は565.4万円。全業種の平均は477.5万円です。建設業のほうが87.9万円高い。
建設業の平均は、全業種より高い
「建設業は安い」は、この統計では成り立ちません。むしろ高いほうです。
この白書は公的データだけを根拠にすると決めています。だから都合の悪い数字も、そのまま出します。
03その平均の下に、沈んでいる職種がある
では、その565.4万円は誰の数字か。
厚生労働省の統計を職種で切ると、電気工事は547.6万円。土木は415.1万円です。土木は全業種の平均も下回ります。
鹿島建設の社員と並べると、差は769.6万円。2.85倍になります。
同じ建設業の中にある、三つの層
04ただし「同じ仕事で2.85倍」ではない
ここは正確に書きます。
有価証券報告書に載るゼネコンの社員は、施工管理、設計、積算、営業、管理が中心です。厚生労働省の言う土木従事者は、現場で手を動かす人を指します。仕事が違います。
だから「同じ仕事で2.85倍の差がついている」とは書けません。言えるのは、同じ産業の中で立場が違うと年収の桁が変わる、ということです。
それでも、この2.85倍には意味があります。工事はどちらか一方だけでは1ミリも進みません。図面を引く人と、鉄筋を組む人。どちらが欠けても建物は建ちません。
05その1,184万は、どこから来ているのか
有価証券報告書には年収が載ります。でも、その原資がどこで生まれたかは載りません。
スーパーゼネコン5社の2026年3月期は、営業利益の合計が約8,347億円。前の年より55%増えました。各社の説明は「価格転嫁と工事粗利の回復」です。
財務省の統計では、建設業の外注費は売上の約36%。元請は売上の3分の1超を、下へ流します。
流れた先はどうか。中小企業庁の調査では、値上げを価格に乗せられた割合は1次下請で53.6%、4次以下で40.2%。国土交通省の調査では、3社に1社(33.8%)が労務費を減らされたと答えました。
同じ年に、公表された2つの事実
国は毎年「下請代金からの値引きは不当行為」と書いています。毎年書くということは、毎年起きているということです。
ただし、ここで原因は決めつけません。8,347億円と33.8%を結ぶ線は、公的データには引かれていません。
言えるのは、この2つが同じ年に公表されたということだけです。
06有報に載らない人たちのこと
この記事で使った1,184.7万円と1,140.4万円は、あくまで本体の社員の平均です。
実際に現場に立つ人の多くは、この2社の社員ではありません。1次下請、2次下請、その先の専門工事会社、そして一人親方。その人たちの年収は、どの有価証券報告書にも載りません。
公開データで言えるのは、ここまでです。層があること。間に769.6万円の差があること。そして下へ行くほど、数字そのものが見えなくなること。
最後の一点が、この白書がいちばん問題だと考えている部分です。
統計に載らない現場の数字は、そこにいる人しか知りません。
出典一覧
鹿島建設株式会社「第128期 有価証券報告書」(2025年6月25日提出/第一部 企業情報 5 従業員の状況)/株式会社大林組「第121期 有価証券報告書」(同 従業員の状況)/国税庁「民間給与実態統計調査(令和6年分)」第8表 業種別及び給与階級別の総括表・その3 平均給与/厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」職種別データ。
※有価証券報告書の平均年間給与は賞与・基準外賃金を含み、対象は提出会社単体の従業員。※差額・倍率は上記公表値から算出(1,184.7÷415.1=2.85倍、差769.6万円)。
【第05節】スーパーゼネコン5社 2026年3月期 決算短信・有価証券報告書(営業利益合計 約8,347億円・前年比+55%)/財務省「法人企業統計」(建設業の外注費は完成工事高の約36%)/中小企業庁 価格転嫁率調査(1次下請53.6%・4次以下40.2%)/国土交通省「下請取引等実態調査(2024)」(労務費を減額されたと回答した企業 33.8%)/同省「公共工事設計労務単価」報道発表(下請代金からの値引きは不当行為との記載)。※営業利益と減額回答率は単位も母集団も異なる指標であり、両者の因果関係を示す公的データは存在しない。
写真出典:ぱくたそ ※写真はイメージです