ISSUE
02
2026
07.25
ISSUE 02ゼネコン編

同じ現場に、1,184万415万が立っている。

ゼネコン社員の年収は、有価証券報告書に1円単位で載っています。同じ年、国の統計に載る建設業の平均は565.4万円。土木にしぼると415.1万円です。3つとも公開されている数字です。

2026年7月25日 / データ出典 各社有価証券報告書・国税庁・厚生労働省
渋谷駅東口の再開発工事とクレーン、周辺の高層ビル群
渋谷駅周辺で続く再開発工事。
鹿島建設の社員2025年3月期・有報
1,184.7万
平均年間給与 11,847,369円/平均41.9歳
同じ産業の平均は
建設業 平均給与令和6年分
565.4万
国税庁 民間給与実態統計調査
職種で切ると
土木従事者令和6年
415.1万
厚生労働省 賃金構造基本統計調査
上と下で、769.6万円の差。倍率にして2.85倍。すべて公開データの中にある。
出典:鹿島建設 第128期有価証券報告書/国税庁「民間給与実態統計調査(令和6年分)」第8表/厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」

01会社の年収は、1円単位で公開されている

上場企業は毎年、有価証券報告書という書類を出します。

そこには社員の数、平均年齢、そして平均年収が1円単位で載ります。推計でも調査でもありません。会社が法律にもとづいて出した数字です。

2025年3月期の分を開くと、こうなっています。

会社(提出会社単体)従業員数平均年齢平均年間給与
鹿島建設8,854人41.9歳11,847,369円
大林組9,386人42.4歳11,404,238円

どちらも2025年3月31日の時点です。この金額には賞与も入っています。

ただし対象は本体の社員だけです。グループ会社の社員も、下請の職人も、この数字には入っていません。

02「建設業は給料が安い」は、平均では当たらない

ここで業界全体を見ます。

国税庁の調査で業種ごとの平均年収を見ると、建設業は565.4万円。全業種の平均は477.5万円です。建設業のほうが87.9万円高い。

建設業の平均は、全業種より高い

1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与(万円)/国税庁・令和6年分
建設業565.4
全業種477.5
出典:国税庁「民間給与実態統計調査(令和6年分)」第8表その3。全業種の値は同調査の公表値478万円と一致する。

「建設業は安い」は、この統計では成り立ちません。むしろ高いほうです。

この白書は公的データだけを根拠にすると決めています。だから都合の悪い数字も、そのまま出します。

青空の下で稼働する大型クレーンを見上げた様子
クレーンを見上げる。

03その平均の下に、沈んでいる職種がある

では、その565.4万円は誰の数字か。

厚生労働省の統計を職種で切ると、電気工事は547.6万円。土木は415.1万円です。土木は全業種の平均も下回ります。

鹿島建設の社員と並べると、差は769.6万円。2.85倍になります。

同じ建設業の中にある、三つの層

年収(万円)/有価証券報告書・国税庁・厚生労働省をそのまま並べたもの
鹿島建設 社員(有報)1,184.7
大林組 社員(有報)1,140.4
建設業 平均(国税庁)565.4
電気工事(厚労省)547.6
土木従事者(厚労省)415.1
出典が異なる数字を同じ軸に並べている。調査対象も集計方法も違うため、厳密な同一条件の比較ではない。それでも、公開された数字がこの位置にあることは動かない。

04ただし「同じ仕事で2.85倍」ではない

ここは正確に書きます。

有価証券報告書に載るゼネコンの社員は、施工管理、設計、積算、営業、管理が中心です。厚生労働省の言う土木従事者は、現場で手を動かす人を指します。仕事が違います。

だから「同じ仕事で2.85倍の差がついている」とは書けません。言えるのは、同じ産業の中で立場が違うと年収の桁が変わる、ということです。

それでも、この2.85倍には意味があります。工事はどちらか一方だけでは1ミリも進みません。図面を引く人と、鉄筋を組む人。どちらが欠けても建物は建ちません。

夜の渋谷駅南口。工事のクレーンとネオン看板が並ぶ
夜の渋谷駅南口。複数のクレーンが立つ。

05その1,184万は、どこから来ているのか

有価証券報告書には年収が載ります。でも、その原資がどこで生まれたかは載りません。

スーパーゼネコン5社の2026年3月期は、営業利益の合計が約8,347億円。前の年より55%増えました。各社の説明は「価格転嫁と工事粗利の回復」です。

財務省の統計では、建設業の外注費は売上の約36%。元請は売上の3分の1超を、下へ流します。

流れた先はどうか。中小企業庁の調査では、値上げを価格に乗せられた割合は1次下請で53.6%、4次以下で40.2%。国土交通省の調査では、3社に1社(33.8%)が労務費を減らされたと答えました。

同じ年に、公表された2つの事実

スーパーゼネコン5社の営業利益/労務費を減額されたと答えた企業の割合
5社の営業利益 前年比+55%
労務費を減額された33.8%
単位も母集団も異なる2つの指標であり、棒の長短に意味はない。並べているのは、同じ年に両方が公表されたという一点である。

国は毎年「下請代金からの値引きは不当行為」と書いています。毎年書くということは、毎年起きているということです。

ただし、ここで原因は決めつけません。8,347億円と33.8%を結ぶ線は、公的データには引かれていません。

言えるのは、この2つが同じ年に公表されたということだけです。

06有報に載らない人たちのこと

この記事で使った1,184.7万円と1,140.4万円は、あくまで本体の社員の平均です。

実際に現場に立つ人の多くは、この2社の社員ではありません。1次下請、2次下請、その先の専門工事会社、そして一人親方。その人たちの年収は、どの有価証券報告書にも載りません。

公開データで言えるのは、ここまでです。層があること。間に769.6万円の差があること。そして下へ行くほど、数字そのものが見えなくなること。

最後の一点が、この白書がいちばん問題だと考えている部分です。

統計に載らない現場の数字は、そこにいる人しか知りません。

出典一覧

鹿島建設株式会社「第128期 有価証券報告書」(2025年6月25日提出/第一部 企業情報 5 従業員の状況)/株式会社大林組「第121期 有価証券報告書」(同 従業員の状況)/国税庁「民間給与実態統計調査(令和6年分)」第8表 業種別及び給与階級別の総括表・その3 平均給与/厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」職種別データ。
※有価証券報告書の平均年間給与は賞与・基準外賃金を含み、対象は提出会社単体の従業員。※差額・倍率は上記公表値から算出(1,184.7÷415.1=2.85倍、差769.6万円)。
【第05節】スーパーゼネコン5社 2026年3月期 決算短信・有価証券報告書(営業利益合計 約8,347億円・前年比+55%)/財務省「法人企業統計」(建設業の外注費は完成工事高の約36%)/中小企業庁 価格転嫁率調査(1次下請53.6%・4次以下40.2%)/国土交通省「下請取引等実態調査(2024)」(労務費を減額されたと回答した企業 33.8%)/同省「公共工事設計労務単価」報道発表(下請代金からの値引きは不当行為との記載)。※営業利益と減額回答率は単位も母集団も異なる指標であり、両者の因果関係を示す公的データは存在しない。

写真出典:ぱくたそ ※写真はイメージです

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あなたの現場の数字は、
どの統計にも載っていない

有価証券報告書に載るのは、上場企業の社員の平均だけ。
その下で実際にいくら動いているかは、現場の声でしか分かりません。

ドカ場建設単価板